カール・ポランニー『大転換』レジュメ
要約(紹介より)
1.「埋め込み」について
市場と社会の関係性…標準的経済学理論は経済とは諸市場の連動するシステムだととらえる⇔経済は自立的ではなく、政治・宗教・および社会的諸関係に従属している=「埋め込み」
2.本来的商品(市場で販売されるために生産されたもの)と擬制商品(土地・労働・貨幣)→擬制商品の「市場」に対する国家的介入の必要性
3.「二重の運動」…市場規模を拡大する自由放任の運動vs経済を社会と切り離すことへの抵抗から生ずる保護主義的な運動=市場社会の成立要素
第Ⅰ部:国際システム
〇第1章:平和の百年
・19世紀文明の4つの制度的要素…①バランス・オブ・パワー②国際金本位制③自己調整的市場④自由主義国家
→自己調整的市場が最重要の制度
・バランス・オブ・パワー(とそれに伴う平和)はいかにして担保されたか
前期(ウィーン体制):国王と貴族の血縁関係・聖職者による行政事務
後期(ヨーロッパ協調):大銀行家による国際金融業
・金融の影響力…①金本位制と立憲主義を通じた政策決定への関与②公式/非公式ルートを通じて列強間の妥協を調整することでの平和の保持ex)オスマン帝国への債務管理
〇第2章:保守の20年代、革命の30年代
・保守の20年代…平和を求めるWWⅠ後の諸改革は19世紀の延長線上にあった→国際連盟における集団安全保障体制(⇔バランス・オブ・パワー・システム)、安定した外国為替と貿易の自由の確保
・19世紀の崩壊…危機の根本原因は国際経済システム(金本位制?)の崩壊
→金本位制を(再)導入あるいは維持するためには通貨価値の安定化が必要=緊縮財政の実施、(特に大恐慌以後?)保護貿易システムの導入
第Ⅱ部:市場経済の勃興と崩壊⑴-悪魔のひき臼-
〇第3章:「居住か、進歩か」
・囲い込みの評価…変化の方向ではなく速度が重要→王権は囲い込みよる社会的混乱を緩和した⇔産業革命のプロセス
・機械の導入とそれに伴う産業革命が創出したもの=市場経済(諸市場の自己調整的システム)
〇第4章:社会と経済システム
・市場経済…市場価格によってのみ統制される経済システム、自己調整的メカニズム
・歴史的に市場は経済の一要素にしか過ぎなかった⇔産業革命以後の経済&古典派経済学者およびそれを引き継いだ学者たちの認識
・部族社会の経済システム…対称性(互酬)と中心性(再分配)
・家政…特定の集団に属する自給自足の経済システムのこと(貨幣経済が補助的に付属している場合もある)、使用と利殖の区別
〇第5章:市場パターンの展開
・取引、交易、交換といった経済行動の原理…市場パターンによって有効的に機能する
・市場パターンの特異性…特定の制度=市場を形成し社会を経済システムに埋め込んでいく⇔互酬、再分配、家政
・市場形成の歴史…古典派経済学の理解:個人の取引傾向→局地的市場→国内市場→遠隔地市場⇔ポランニーの見解:遠隔地交易は市場を伴わないことが多い、局地的市場は限定的な性格かつ副次的なもの、国内市場は都市間のもの、加えて都市における二つの交易(遠隔地&全国)は非競争的なものだった
→15、6世紀の重商主義国家が全国市場の形成を行う、重商主義国内通商政策の非競争的側面、社会に埋め込まれていた側面
〇第6章:自己調整的市場と擬制商品-労働、土地、貨幣―
・土地・労働は市場外の仕組みで扱われるものだった
→自己調整的市場の出現、社会の市場領域と政治領域の分離によって市場によって包摂されていく→擬制商品(労働・土地・貨幣)化
→社会の実体(人間存在それ自体である労働、社会がその中に存在する自然的環境である土地)が市場に従属する=社会の経済への埋め込み
〇第7章:スピーナムランド法―1795年-
・イギリスにおける産業資本主義の完成…スピーナムランド法の修正とそれに伴う競争的労働市場の完成
・スピーナムランド法…最低限の賃金保障(「生存権」保障)しかし、労働の生産性の低下
→修正救貧法の成立→受給のスティグマ化、労働者による政治運動の出現
・政治経済学の出現
〇第8章:スピーナムランド法以前と以後
・救貧法(+定住法)と職人条例…(二重の意味での)労働の強制と労働の管理=労働市場の形成を防ぐ
・産業予備軍と農村への再流入→スピーナムランド法の制定
・第七章の内容
〇第9章:貧困とユートピア
・貧困という問題は、貧民(の出現)と政治経済学(の創出)という2つの観点から解釈すべきであり、この2つは合わさって「社会の発見」へとつながる
・イギリスにおける貧民の出現…16c前半
・貧民を救済するための様々な試み…ベラーズ、ベンサム、オーウェン⇔デフォーの言説
〇第10章:政治経済学と社会の発見
・自由な労働市場なき競争的市場経済…持続的な貧困の形成(←賃金引き下げ効果)
→タウンゼンドの自然主義をもとにした政治経済学の形成(マルサス、リカード)、飢餓による統治
・伝統主義者バーク、功利主義者ベンサムの一致点…自然主義的な政治経済学の諸原理への賛同と自由放任への理解
・⇔ロバート・オーウェン…「社会」への理解、市場経済の諸原理(と考えられたもの)が既存の社会を破壊するという考え
第Ⅱ部:市場経済の勃興と崩壊(2)―社会の自己防衛
○第11章;人間、自然、生産組織
・自己調整的市場において擬制商品が扱われる→労働と自然(いずれも生産要素)に対しては工場法・社会立法と土地立法・農業関税などを用いて規制を行う、同様に貨幣については生産組織である企業を保護するために中央銀行制度や通貨制度が制定される
・社会における階級とその利害…商業階級と経済的自由主義、労働者階級・地主階級と社会防衛、それぞれ政府と企業(前者)国家と産業(後者)を牙城とする
○第12章:自由主義的教義の誕生
・競争的労働市場+金本位制+国際自由貿易=世界規模の自己調整的市場システム
・「自由放任に、自然なところは何一つなかった。」…自由市場を形成するのは国家であり、その導入に伴い国家における立法機能は制限されるが行政機能と管理機能は増大する
⇔計画化された自由放任に対する反自由主義的立法こそ自然発生的(その法律に影響されて反自由主義的態度が成立した)
以下、自由主義者の論説への批判
・「集産主義的」政策は多様…経済的自由主義によって発生した社会問題から公共的な利益を守るため
・「集産主義的」政策はそれを目的として行われないこともあった
・「集産主義的」政策を推進する勢力の多様性…社会主義者、教会勢力、経済的自由主義者
・自由放任と経済的自由主義(あるいは自己調整的市場)の関係性…経済的自由主義と自由放任は対立しうる概念ex)カルテル・トラスト、労働組合
○第13章:自由主義的教義の誕生(続)―階級利害と社会変化
・階級利害を長期的な社会変化に適応することの限定的意味合いと社会変化に伴って階級それ自体が変化するという視点、利害を金銭的価値に限定すべきでないということ、階級同盟的な行動でなければ階級利害は達成できないということ
・市場の全般的導入に伴う社会変化について…文化的な退廃(社会変化を単に経済的側面から観察することへの批判)
○第14章:市場と人間
・未開の社会では個人で飢えることはなかった⇔市場導入(あるいはその前提)に必要となる「自由で自発的な労働者」を生み出す必要性
・イギリスにおける社会の防衛…①地主階級の抵抗②労働者階級の抵抗、オーウェン、チャーティスト運動
・ヨーロッパ大陸諸国…ブルジョワ&労働者階級vs封建的貴族&教会勢力→労働者の政治的運動の高揚⇔イギリス…労働者階級vs封建的貴族&ブルジョワ→労働組合を通じた非政治的運動に限定(チャーティスト運動の失敗)
○第15章:市場と自然
・土地の擬制商品化の過程…①土地の封建的・共有地的な使用からの解放②都市部工業人口を支えるための農業生産の増大と全国市場の整備③農業生産物の流通を国際自由貿易に組み込む
・土地の擬制商品化に対する抵抗(=社会防衛)は貴族・地主階級⇔商業階級・労働者階級
・1920sの「法と秩序」(市場システムを維持する機能)は反動的諸勢力(地主階級や小農階級など)が担うvs労働者階級→労働者階級の国家による包摂(あるいは階級的運動の停滞)によって小農の影響力は低下⇔地主階級の存在意義=経済的自給自足の必要性
○第16章:市場と生産組織
・生産組織=企業は貨幣を通じて市場から影響を受ける
・古典派経済学では貨幣は交換手段として規定された…商品貨幣
・商品貨幣は貨幣自体に価値的な裏付けがある→金によるもの、金本位制下の紙券紙幣でも同様→取引量増大に商品貨幣量がついていけず、物価価値の下落を引き起こす
・古典派経済学の理論…政治領域と経済領域の切り離し(商品貨幣説)⇔金本位制(国家による裏付け)、購買力貨幣説
・中央銀行制度の意義…集権的機能で市場経済を維持①国際的な影響(外国為替)から短期融資を通じて企業を保護②国内的な影響(信用状態の健全性)から企業淘汰を通じて外国為替を安定化
→ナショナリズムの牙城となる
○第17章:損なわれた自己調整機能
・生産要素市場は自己調整的市場ではない→無理やり含意しようとしたときに社会の防衛が始まる(今までの話)
(・アメリカにおいても生産要素の供給に限界が見えるとヨーロッパ諸国と同じ帰結を辿った)
・保護主義の連鎖性…社会立法(労働)と穀物関税(土地)→産業資本家の保護関税要求
・貨幣(に関わる金融政策)の国家的統合力…国民に対する影響力の甚大さ
→国際体制における金融の重要性→金融と信用にもとづく経済的不均衡の延命措置
・市場の機能不全を政治的に解決する
○第18章:崩壊への緊張
・失業の発生←社会立法による硬直化した価格と費用によるもの
→①国内政治における階級間の緊張関係(以下に分岐)
→⑴緊張関係が政治領域に持ち込まれる→救済措置(財政均衡条件の存在によって限定的)か階級闘争の成果の覆し
→⑵緊張関係が経済的領域で解決が試みられる→賃金の引き下げ
→②国際経済における通貨価値の下落、為替への圧力(以下に分岐)
→⑴小国の場合…国家威信の減退
→⑵大国の場合…帝国主義的対立の拡大による矛盾の外部化
・金本位制の消滅によって従来の世界経済と市場文明が崩壊した
第Ⅲ部:大転換の進展
○第19章:大衆政治と市場経済
○第20章:社会変化の始動
・ファシズム…市場システムの機能不全によって誕生
○第21章:複合社会における自由
・生産要素→市場外で決定⇔生産物→市場で分配
・自由の問題…①制度的次元②道徳的あるいは宗教的次元
①制度的な次元…規制を通じて自由のバランスを創出すべき
②道徳的な次元…制度的な次元で達成される自由を否定=市場ユートピアの擁護
・「ファシズムにおける自由の完全な破棄は、実際のところ自由主義哲学の必然的な結果である」…社会における権力と強制は現実的なものである。